【獣医の日常】Day18:拾われた猫(後編)

獣医の日常

治療は、困難を極めました。

敗血症などから来る低血糖、電解質異常など様々な異常がおこっていたため細かいモニターを必要としました。

底の抜けたバケツのような状態…いくら薬品や糖分を足してもうまいコントロールが難しく、夜も定期的に採血を行い、状態のモニターを続け、下がる血糖値や電解質異常を正常化に向けて努力を行いました。

ご飯も食べれない状態のため鼻にカテーテルを入れての栄養管理、培養検査による抗生剤の検討…

体温も温めればすぐに上がり、何もしなければどんどん低体温に落ちる。

睡眠時間をごりごり削りながらの集中治療…そのうえで、通常の診療、手術を回しました。

そんな生活を続けたところ猫は少しずつ数値的な改善は見られていきました。声もか細くはありますが鳴けるようになっていってくれ、立ち上がり周囲を伺うようなそぶりをしてくれ始めました。

そして、連れてきてくれたご家族も面会に何度も来てくれて、猫に励ましの言葉をかけてくれ改善の兆候をともに喜びました。

『先生、この子の名前を決めました。朝日にします!グッズも購入してありますよ!いつくらいに退院できますかね?』

『まだ今は点滴などでなんとか状態をあげているところです。元気になってくれたら徐々に治療の強度を下げていきます。それでも安定を保てるようなら一時的な退院をさせたいと思います。』

『良かったです。楽しみにしています!』

私もそのままうまくいけばと思っていました。

しかし、それから数日状態は一向にそれ以上に上がってきません。むしろその日を頂点に状態はじわじわと落ちていきました。

再度の抗生剤の検討、その他栄養補助の薬剤の追加、何か手はないかと日々検討し、専門医のセカンドオピニオンを仰ぎ治療を勧めていきました。

しかし、朝日は徐々に弱っていきました。ついには発作が起こるようになり、意識状態は低下し、そのコントロールはさらに困難となっていきました。

ご家族には再度厳しいとお伝えせざる負えない状態になり、ご家族もその話を聞き涙しました。緊急の際の挿管や心臓マッサージなどの処置をするかという問いにご家族は希望しませんでした。

私の頭には安楽死という言葉がちらつきます。このまま治療を続けることがこの子のためになるのかと…

そして、数日後、朝

朝日は静かにその呼吸を止めました。

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人によっては、そのまま外で亡くなった方が猫のためなんじゃないかと考えるかもしれません。

でも、私は朝日を治療し生かしたこの時間が無駄だった、自己満足だったとは思いません。

だって、辛いのは外猫だって家猫だって同じでしょ?

お腹がすいたらお腹に何か入っているだけも幸せだと思っています。

倒れている外猫を助けたほうがいいかと問い合わせが来ることがあります。

もちろん助けることを選択した場合、そこに責任が生じます。動物病院に連れていけばお金もかかります。それでももしあなたが助けたいと思うならば動物病院に連れてきてください。

私は努力します。その先に幸せがあると信じてます。

【獣医の日常】Day19:獣医師ハルの年末

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