【獣医の日常】Day15:ドクターショッパー

獣医の日常

この話は、フィクションです。ご了承ください。

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まだ暑い八月の末、動物病院はうちのような予約制にしていないところでは、日中の暑い時期を避けるため朝一と夕方の閉院ぎりぎりに混む『サマータイム』と勝手に呼んでいる時期にあります。

本日も朝から走り回り、朝の一山を超えたところで、アイスコーヒーを飲んで落ち着き、次の山に備えていると一通の電話が入りました。

『初めてご連絡します。うちの子○○病があり、その他にもいくつかの病気を抱えていて他院にかかっているのですが、他院でいつも○○という注射を打たれるんですがおかしいと思うんですがどう思いますか…不信に思って病院に行くのをやめたんですがやはり行った方がいいのか悩んでいていて…』

とのこと

『わかりました、お電話口ですとなかなか状態を把握しきれませんので一度ご来院ください。』

とお伝えすると

『でも、本当に弱っていてこれ以上治療するのも可哀そうに思うんです、でも家族は連れていけっていうし、どうすればいいでしょうか…』

あー…これは、困った人だな…というのが直感に思いました。この人が求めているのは治療ではなく、ただの同意だなと思いました。

動物病院をやっていると『○○しました、大丈夫ですか』と聞いてくるご家族がいます。実際心配に思って電話をかけてくるご家族もいますが、その一部に通院する気はないでけどもただ獣医師に大丈夫と言って欲しいだけのご家族がいます。

私はそのような人を勝手に『ダイジョウブハンター』と呼んでます。

ダイジョウブハンターはただダイジョウブと言ってもらって安心したいだけなので、こちらがいくら来た方がいいよ、治療しないといけないよといっても治療のモチベーションは低く、様子を見ますといって来院せずに終わることさえあります。

しかし、医者が大丈夫と言っても病気が治るわけではありません。時としてご家族の都合や希望は、二の次にしないと動物が危なくなることがありますのでなんとかあきらめずに説得を試み、

『わかりました、一度行きます。』

という言葉をもらいました。実際それで来るかは別として一先ず医者としての仕事をこなし、次の患者へと向かいました。

そして、午後

『初診です。先ほど電話したものです。』

と若い女性と一匹のご高齢のトイプードルが来院されました。

とりあえず、来院されたことに安堵し、初診の方のための問診表をお渡し、書けた問診表を受取ったのちお呼びします。

『獣医のハルです。初めまして、では、初めてなのでまずは今までの病気の流れを伺いたいのですが、何か血液検査結果などの資料はございますか?』

というと

『あります、こちらです…』といって出された資料を拝見すると…

一瞥してすぐに、あ…これは、ドクターショッパーだ…と思いました。そこにはわずか数週間で、時期はズレてだが複数の病院の検査結果の紙が並んでいました。どこもまずは全体の検査を行い、その後異常のあった数値に関してのモニターを行っていました。

これは、つまりこの人がいくつもの病院を転々と渡り歩いている人ということがわかります。そして、お話を伺うと…つらつらと今までの流れ説明してくれました。

最初はここに行ったけど良くならなかった…次にここに行ったけどここの治療がおかしいと思い…など獣医師の目線で言うと特におかしい治療はしていないようだけれどご家族としての不満だったとを述べていました。

このようにいくつもの病院を転々とすることをドクターショップと言い、そういう人を私は勝手に『ドクターショッパー』と呼んでいます。獣医師と信頼関係を築けずに、自分の思うような結果が出ないと医師を変えてしまう人です。

ドクターショッパーの特徴の一つに…

『先生は、とてもよく話を聞いてくれます!とてもやさしくて素晴らしいです。前の病院は……うんぬん』

とやたら目の前の獣医師を持ち上げます。そして、前の病院を落とします。おそらくご家族としては、そうすることでいい治療をしてくれるのではと思っているのかもしれませんが、多くの場合見透かされます。

この人とは信頼関係を築けないと…

信頼関係の築けない場合、手堅い治療に終始せざる負えません。手堅い治療とは、リスクをなるべく負わない治療、チャレンジはしない治療です。間違ってはいませんがどうしても病気が進むとリスクのある治療をしないといけないケースがあります。その際にその治療を行えないのです。

なぜなら信頼関係のない人は往々にして治療がうまくいかない場合強く攻めてくるからです。リスクを負ってでも、治療の望みにかける治療をした際にリスクが現実になった時に、攻めてくる相手にその治療はできません。

『わかりました、うちではこの状態ではこういった治療をします。状態は厳しいですが頑張りましょう』

といって、一先ず治療開始となりました。

そして、数日後…

『では、明日何時にご来院お願いいたします』『わかりました、ありがとうございます。また、明日!』

という会話を最後に次の日から来なくなりました。こちらも察して連絡を取ろうともしませんでした。

どうか次行く病院では、ご家族が獣医師と信頼関係が築けるといいな…そして、あの年老いた子が元気になればいいけど…

と独りごち。次の子に向かっていきました。

ドクターショップは、ご家族としてはいい獣医を探すための行為なのかもしれませんが結果治療は長引き病気は治らず、むやみにその子を苦しめる可能性がある行為です。元気な時ならまだしも命が関わる場面では非常に危険です。病院選び、獣医師選びは、若くて元気うちに行いましょう。それが我が子のためなので…

よろしくお願いいたします。

コメント

  1. アツヒロ より:

    初めまして。
    獣医さんのSNSから、偶然先生のブログを見つけて読ませて頂いてます。

    私は獣医学部を目指す浪人生ですが、落ちこぼれかつ、進路変更で二浪目です。
    国公立にこだわってきましたが、私の学力では私立さえも怪しいので、今は私立獣医学部に絞って勉強しています。

    先生にお聞きしたいのですが、獣医の就活で、出身校や年齢が不利になることはありますか?
    私は受かればどこでもいいと思っていますが、新設校(O大です)はやめておけとか、二浪以上は就活に悪影響と聞いて不安になってます。

    必死で勉強しているつもりが、模試で結果がふるわなかったり、挫けそうな時、先生のブログを読むと気持ちが楽になります。
    時々しか見られませんが、これからも楽しみにしています!

    • 初めまして、ご連絡ありがとうございます。

      質問に関してですが臨床獣医に進むことを前提にお話すると、O大については確かに色々と言われてはいます
      (そもそも教える側の人材があまりにも不足している業界なのに新設してしまったため教える側の人材が…とか)。
      でも、実際それが就職に影響することはあまりないかなと思います。何より出身大学を気にする人の病院には就職しなければよいでです。(たまに同じ大学卒の人しか雇わない院長はいます)
      私は気にしませんし、大切なのはその子のやる気と人柄とその病院の人材難の程度かなと思います。
      特に臨床については正直学校で習うことはたいして役に立ちませんしね(元も子もない)。現場に出てからいかに勉強するかの方が100倍大切です。

      年齢についても同様です。多浪の人はたくさんいますし、私の学生時代の一番の友人は、一回大学出て就職してから入りなおしてます(なので一回り上です)。
      他にも獣医学部の別の学科からやはり獣医になりたくて転科する人もいますしね。

      結局獣医の免許取ってしまえばそこから先は実力の世界なので、年齢も経歴も気にせず安心して受験に取り組んでください。
      ※公務員とか会社員とか狙いだと上記の限りではないです。

      模試うまくいかなくてへこむのもわかります。でも、私立獣医の問題と模試の問題の難易度は異なります、私の頃(もう20年近く前、年とったな…)は、どこもそこそこの難易度の問題で
      あとはその中でいかにミスしないかという問題が多かったと記憶しています。
      なので、ひたすら問題を解きまくる、筋トレのようにひたすらやってみることをお勧めします。
      獣医になると勉強する内容は3,4科目では済みません。ファイト―

      以上です!また何かございましたらご連絡ください。
      また、ブログ見ていただいてありがとうございます。なるべくさぼらずアップします

  2. アツヒロ より:

    お忙しい中、丁寧に教えて下さり、本当にありがとうございます。

    いろいろ悩むことはありますが、とにかく必死で勉強して、もし合格できればどの大学でも進学しようと思います。

    勉強の合間に、またブログ読ませて頂きます。
    合格したら、また報告します!
    ありがとうございました!

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