【獣医の日常】Day16:代替療法

獣医の日常

この話は、フィクションです。ご了承ください。

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セミの声もまばらになった九月頭

今年の夏ってなんか夏らしい事したかな…あーそういえば先月中旬くらいに夜釣りにいけたか…

それくらいか…夏好きなのにな

海行きたい、釣り行きたい、沖縄行きたい

とうじうじしながら日々を送っています。

ですが、いくら私が休息を願っても目の前の病気がなくなることはありませんし、病院閉めればいいと言われても患者が心配で踏み出せないし、結局休みにしても招集に応じてしまうのが臨床医の性質です

結局働く。呼吸するように働く。別に楽しいからいいけどね…と本日も病院へと向かいます

今私の頭を悩ますのが丸(仮名)という老猫です。

やっかいな腫瘍を抱えている猫さんです。治療を行っていますがその反応が芳しくない

壮年の女性が飼っていて今年で17歳、すでに高齢と言っていい歳ではあります。

『でも、なんとかもう少し頑張って欲しいです。先月家族を亡くしてて、この子まで逝ってしまったら…』

『お気持ちわかります。今やっている治療は副作用こそ少ないですが効果もマイルドなので徐々に悪化していくのは避けられません。あとは先日お話した抗がん剤を使うかどうかですね…この高齢の子には厳しい治療になってしまいますが…』

『長くは生きてほしいですが、でも、痛い苦しい治療も嫌なんです。』

『わかります、もちろん副作用を抑える治療は併用します。しかし、それでも辛いことが避けられないかもしれません。でも、やるならば早いうちにしっかりとが抗がん剤治療の鉄則です。中途半端な治療こそ意味をなさないことがあるので…』

『そうですか、もう少し考えます。』

『わかりました、早めにご決断を…』

とのやりとりをすでにして数日…まだ結論が出ません。

腫瘍の治療は、個人的には辛いです。なぜなら治療がうまくいって一回改善したとして根本的に治ることが少なく、いづれ再燃してしまうものがほとんどだからです。

中には外科ですぱっと治せるものもありますがタイミングと運次第なところがあります…

しっかりと健康診断を定期的にやってくれていたご家族でも気づいたときには手遅れに進行してしまっている場合もある

高い治療費、きつい副作用、その先一旦良くなってもまた再発に恐れる日々…しかし、それでも治療の先に伸びた時間には価値があると思い、必要とあらば戦わねばなりません。

でも、そのためにはご家族の強い意思と十分な理解が必須なんですよね。

先月も癌と闘うと決めたご家族の子に抗ガン治療を行ったものの翌日に亡くしてしまった苦い記憶が個人的にもあり、きつい抗がん薬の使用は、私自身慎重になってしまっているとも感じている。

どちらにせよ時間がないな…でも、せっつくわけにもいかない…悩ましい所です

それから数日…

『先生、○○療法ってどう思います。癌に効くってSNSの友達が言うんです。』

と、いきなりあがってきた提案に眉をひそめました。

あーなんか聞いたことがある。なんか最近流行ってる代替療法だ。

代替療法とは、一般的な薬や外科を用いた治療とは一線を画したさまざまな治療の総称であり、色々なものがあるがその多くが生き物の元から備わった免疫に働き癌を抑えるとされるものや身体のバランスを整えましょうというものだったりします。

エビデンスが乏しいものが多く、一般の教科書的なものには載らないためエビデンスベースで治療を考える一開業医の自分には縁遠いものです。

『聞いたことはありますが個人的には知識が乏しく、なんとも言えませんね。』

『そうなんですね、友達の子はそれで良くなったって言うんです。副作用もないとのことなのでやってみたいのでそちらの病院に転院します』

この言葉を聞いて私は心底落胆してしまいました。

今までの自分のインフォームドが簡単にも知らない一般人の一提案に負けてしまったと感じたからです。

そのインフォームドは、私が診療の合間や後に最新の英語の論文を読み得た知識、その他癌の専門医の意見を聞いて得た知識などを多く含んだ努力の結晶です。

それが…

『わかりました、治療の選択はご家族のものです。私自身その治療を否定することもできませんのでお任せします。でも、脅すような言い方になってしまい申し訳ありませんが抗がん剤の治療をする時間的余裕はあまりないので、もしかするとやはり難しいとなったときには、こちらで今と同じような提案はできなくなってしまうかもしれません。宜しいでしょうか?』

『いいです。ありがとうございました』

そして、そのご家族は転院していきました。

それから、しばらくたってご家族から亡くなったとご連絡がありました。

ご家族が納得いけばいいのか…とも思ってしまいますが、やはり最後まで診てあげたかったな…私の伝え方がご家族を代替療法に向かわせたのかもしれない。そして、なにより信頼関係が築けていなかったのが問題か…

そう思うと自身が未熟だったと思い、自分にできることは日々努力を積み重ねるのみだと切り替え

よし、また頑張ろう…と次の子に向かいました。

代替療法は、そのすべてが否定されるわけではありませんが、一般的な標準治療ではないということをご理解ください。効く子もいるかもしれませんが、その効いた子と自分の子が同じ病気とは限りません。

がんに効く!と書いてあると治ると勘違いしてしまいますが、効く=治るとは言ってないのです。そして、その代替療法が本当に治るのであればそれはどんなものであれいづれ標準治療になっていきます。だれも好き好んで副作用のきつい薬なんか使いたくはないです。

ご理解の程宜しくお願い致します

【獣医の日常】Day17:拾われた猫(前編)


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