【獣医の日常】Day21:あなたは素晴らしいご家族でした

獣医の日常

この話はフィクションです。ご了承ください

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私には苦手なことがある。

それが看取りだ。

大切なご家族を亡くした家族を前にして医者の言葉選びはなんと難しいことか…

『○○時○○分…ご臨終です…』

私は可能な限りの知識と経験をもちいて全力で緊急措置を行ったものの、反応しない目の前の子、そして、凪となった心臓の波形を前にしてそう告げます。

『ご家族の方、どうぞお近くで頑張ったこの子を見送ってあげてください』

そうお伝えすると、その後のご家族の反応はそれぞれで…ただ泣くご家族、後悔を口にするご家族、ともに生きてくれたことを感謝するご家族、そして、目の前の無力だった医師に感謝を述べてくださるご家族…

そこには、その家族が作り上げたその子との生活の集大成である様々な形があった。

私はそんな様々な形を前にして、その子とご家族と歩んできた治療をもとによく頑張りましたね…立派でした…とお伝えすることを定型句としているのだが、その内心はぐちゃぐちゃだ…

あきらめるのは早くなかったか…もっとなにかできたのではなかったのか…感謝などしないでいただきたい、目の前にあるこの辛い現実は私のせいなのではないのかと…

そんな内心を抱えながら、発する定型句のなんと空寒い事か…でも、そんな定型句をお伝え出来るときはまだましで、泣くご家族を前にして、時に私は泣いてしまうんです。医師にも関わらず泣いてしまうんです。

10年以上この仕事に携わり、多くの看取りを経験してきているのに…

あふれる涙で私の方が早く部屋から出ていきたくなるくらいにね。そんなときは私はむしろそっけなくご家族に

『お身体を綺麗にするので、待合室でお待ちください』

と早口でお伝えしてしまいます。

今回もそんな感じです。本当はご家族とともに号泣してしまうところでした。

はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーへたくそ

もっといい言葉を伝えられないかなー自分…

最初から病気と分かっていて保護団体から引き取られたその子は、来たときは保護された子に独特な空虚な眼をしていたのに、ご家族の愛を受け、人を好きな本当にいい子になった。いろんな病気も私の治療にちゃんとついてきてくれて良くなった。でも、やはり長く繁殖に使われてきていたその子には乳腺の癌ができてしまった。それでも、ご家族はなお一層の愛をそそいでくださった。

ご家族は私に最後まで感謝をしてくれた、お金だけじゃなくて、感謝として菓子折りをもってきてくださった。

言えないけど看取りが下手ですみません。

この言葉を心からお伝えしたい、

『感謝したいのは私の方です。あなたは素晴らしい家族でした』

乱文失礼いたしました

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