
うちの子最近、トイレを失敗するのよー
あと、昼間寝っぱなしだし、夜変な時間に鳴き出しちゃうし、困ったわ

それは認知機能不全症候群(認知症)かもしれません
今日本で飼われているワンちゃんの半分以上が7歳を超えており、人とともに犬も高齢化が問題となっています。
認知機能不全症候群は、高齢になり、認知機能(ものごとを正しく理解判断し、行動する機能)が衰えることで、さまざまな生活上の障害がおこる病気です。以前は痴ほう症と言われていましたが今は使わなくなりました。 認知機能不全症候群は人だけでなく犬や猫でもおこります。
今回は、犬における認知機能不全症候群(認知症)について解説します。
- 認知症の原因
- 認知症の症状
- 認知症の診断
1.認知症の原因
認知機能不全症候群(以下、認知症)は、年とともに徐々に体に酸化ストレスから産生されるフリーラジカルが、酸素を多く使う脳の神経にダメージを与えていくことで脳が萎縮していき、認知機能不全に陥るといわれています。そのため、高齢になるとその罹患率は上がり、15~16歳の犬の68%に認知機能の低下が見られるといわれます。雄雌の罹患率に違いはなく、犬種差もないと言われていますが日本犬に多いのではとも報告があります。
また、認知機能不全の原因として食事が影響するともいわれており、特に抗酸化成分を多くとっている子は、取っていない子より発症率が低いという報告があります。その他に低品質なフードが認知機能不全のリスクを増加するともいわれています。

2.認知症の症状
認知症には、症状はアルファベットのスペルから『DISHAA』と言われ、下記のように分類されています。それぞれ細かく解説すると
D(Disorientation)見当識障害(自らがおかれている場所がわからなくなる障害)
例
- 家の中で迷子になる
- 狭いところで出られなくなる
- 行き止まりで動けなくなる
I(social-environmental Interaction)社会的交流の変化
例
- ご家族などに対して、恐がる、攻撃的になる
- ご家族の呼びかけに応じない
- 周囲への関心がなくなる
S(Sleep-wake cycle)睡眠サイクルの変化
例
- 夜寝ないで歩き回る
- 夜泣きする
- 日中は起きれない
H(House-soling、Hygiene、House-training)学習した行動の変化
例
- 誤ったところに排泄する
- お手、お座り、伏せなどの以前できたことができなくなる
A(Activity)活動の変化
例
- 活動性が落ちる
- ずっと活動している
A(anxiety)不安
例
- 恐がる
- 家族がいないと鳴く
- ずっとついてくる
上記のうちよく見られるのが、排泄の失敗が最も多く、その次に無駄吠えの増加、家族との関わりの変化が見られます。
他に身体の変化として
- 頭を上に上げられない
- 方向転換や後ろに下がることができない
- 震える
- うまく歩けない、ふらつく、転ぶ
- 様々な感覚が鈍化(見えない、聞こえない、臭わないなど

3.認知症の診断
認知症の診断には下記のような点数票が用いられます。症状をもとに点数をつけ、その点数によって認知症の有無を調べることができます。
0点 | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 | 得点 | |
質問①長時間ウロウロする、円を描くように歩き続けるなど、目的なく歩き回る行動をしますか? | 全くない | 月に1回程度 | 週に1回程度 | 日に1回程度 | 日に2回以上 | |
質問②上記の行動は過去半年間で増えましたか? | 変わらない | 少し増えた | とても増えた | |||
質問③壁や家具に当たってもそのまま歩き続けようとすることがありますか? | 全くない | 月に1回程度 | 週に1回程度 | 日に1回程度 | 日に2回以上 | |
質問④物の隙間で行き詰まり、出られなくなることはありますか? | 全くない | 月に1回程度 | 週に1回程度 | 日に1回程度 | 日に2回以上 | |
質問⑤家族や親しい人、同居のペットのことを認識できないことがありますか? | 全くない | 月に1回程度 | 週に1回程度 | 日に1回程度 | 日に2回以上 | |
質問⑥上記の行動は過去半年間で増えましたか? | 変わらない | 少し増えた | とても増えた | ×3 | ||
質問⑦なでられること、触れられることを避けることはありますか? | 全くない | 月に1回程度 | 週に1回程度 | 日に1回程度 | 日に2回以上 | |
質問⑧いつもする場所以外で排泄してしまうことが過去半年間で増えましたか? | 変わらない | 少し増えた | とても増えた | |||
質問⑨愛犬が寝ている、休んでいる時間は過去半年増えましたか? | 変わらない | 少し増えた | とても増えた | |||
質問⑩床や壁をぼんやりと見つめ続けることはありますか? | 全くない | 月に1回程度 | 週に1回程度 | 日に1回程度 | 日に2回以上 | |
質問⑪上記の行動は過去半年間で増えましたか? | 変わらない | 少し増えた | とても増えた | |||
質問⑫こぼした餌を上手く見つけられないことはありますか? | 全くない | 時々ある | よくある | かなりある | 毎回 | |
質問⑬上記の行動は過去半年間で増えましたか? | 変わらない | 少し増えた | とても増えた | ×2 | ||
合計得点 |
上記の点が16点以上になると認知症の疑いとなります
また、気をつけなければいけないこととして、認知症だと診断するためには上記の症状とともに下記のような様々なほかの病気を否定しなければいけません。
- 脳腫瘍や脳梗塞、てんかんなどの脳障害を起こす疾患
- 分離不安やストレス行動などの問題行動
- クッシング症候群や甲状腺機能低下症などのホルモン疾患
- 腎臓病から来る多尿や高血圧による脳や目への障害
- 関節炎などによる痛み
などです。これら様々な病気が認知症に似た症状を出してしまい、これをご家族が誤認してしまうことがあります。そのため、

うちの子認知症かなー
でも、年だししょうがないわねー
と思っても、

しっかり調べてから対策を考えましょう
→【獣医師執筆】老犬の認知機能不全症候群(認知症)の原因とその治療法②

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