【獣医師執筆】老犬の認知機能不全症候群(認知症)の原因とその治療法②

病気について

うちの子認知症だったのね…

何かしてあげられることないかしら

認知症を完全に治すことはできないですが、症状の緩和や進行の抑制、そして予防することはできます。

認知症は,年とともに緩やかに進んでくることがほとんどです。

認知症を3つの段階に分けて考えると、予防期(自立している段階)、進行期(徐々に症状が見られる段階)、介護期(介護が必要な段階)に分けられます。認知症の治療は、その子その子の症状にもよって異なり、それぞれの段階で予防的ケア、症状の進行抑制、そして、治療と適宜変えていく必要があります。

認知症のケアは、基本的には病院で治療するものではなく、家でご家族が行うことがほとんどです。かつ、それはその子が天寿を全うするまで続きます。

そのため、認知症のケアは時にご家族にとって大きな負担となりえます。そこで、いかにご家族で協力するか、ときに動物病院や老犬ケアのヘルパーさんを頼むなどして負担を軽減するかを考えましょう。

  1. 予防期(自立している段階)
  2. 進行期(徐々に症状が見られる段階)
  3. 介護期(介護が必要な段階)

1.予防期(自立している段階)

認知症の発生率は、論文によって異なりますが、11から12歳で28%程度発生し、徐々に増加してとされています。そこで、大切なのがその年齢になる前から始める認知症予防です。

と、書いても認知症に必ずしない方法は私の知る限りありませんし、認知症の最大の要因は当然ながら加齢です。加齢を防ぐことは誰にもできません。しかし、予防に効果があると言われる方法について紹介します。

①食事

人では、認知症の予防のためにバランスのいい食事や必要な摂取カロリーを守ること、塩分糖分の取りすぎを控えるなどの食生活が推奨されています。犬でも低品質なフードが認知症のリスクを2.8倍も増加させることがわかっています。

では、高品質なフードを摂取しましょうといわれますが、高品質なフードとはどんなものなのかというと、その一つが『アミノ酸をバランスよく含んだタンパク質(良質なたんぱく質)』とされています。そのようなフードの選び方としては、裏の原材料を見て、どのような肉を使っているかが明確なものを選びましょう。

例えば、肉類や肉副産物と書かれたものではなく、チキンやビーフなどと明確に書かれたものから選び、かつ費用感も中価格帯以上のものが好ましいと私は考えます。

また年齢のステージに合わせたご飯が必須です。最近では、全年齢に使用できるフードもありますが、お勧めしません。

②普段の生活

普段の生活で、遊びや散歩をしっかりしているという子は、認知症のリスクが低下するといわれています。普段の生活にほどよい脳への刺激を与えるように心がけることが大切です。そのため、朝夕とその子の身体や犬種に合わせた運動をさせてあげましょう。

また、日々のストレスも脳への悪影響があるとされます。その子が過ごす環境を見直して、暑くないか、寒くないか、寝場所は心地いいか、恐怖を与えてないか、病気はないかなどを見直し、また何よりもその子が喜ぶこと、幸せに過ごせることを常に意識してあげましょう。

③サプリメント

脳の加齢や認知症の悪化を予防する効果があるとされる栄養素がいくつか知られています。最近では多くのフードやサプリメントにそれらが含まれており、予防目的また、進行を防ぐのに摂取することが推奨されています。

抗酸化物質(脳の酸化ストレス防止)
  • ビタミン群(ビタミンA、ビタミンE、ビタミンC)
  • 葉酸
  • コエンザイム
  • ポリフェノール類
脳機能に良い栄養素
  • オメガ3脂肪酸(DHA,EPA)
  • 中鎖脂肪酸(MCT)
  • ビタミンB群
  • リン脂質
  • L-カルニチン

予防に使えて手に入りやすいものをあげてみると…


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などがあげられます。

2.進行期(徐々に症状が見られる段階)

認知症の症状の中でご家族がまずよく見つけられるものとして、

  • 排泄の失敗
  • 無駄吠え
  • 以前できた指示を聞かなくなる
  • ご家族がいなくなると過度に寂しがったり、逆に家族への関心がなくなる

などの症状が見つかりやすいようです。

その他にも前回お伝えしたDIHAAの症状が見られだすかもしれません。それらは、多くの場合ゆっくりと徐々にできなくなっていきます。私が飼っていた子の場合、すごく神経質になり、ずっと吠えたりする症状がまず見られました。これは認知症の症状がでてくる進行期にあたります。また、ご家族が認知症だと気づいていないときもあるので、前回載せた認知症の検査を定期的にやってみましょう。

そして、症状が見られだしたら上記の他にさらに下記のような対策を行ってみましょう。

①食事

認知症の症状が見られた場合の食事ですが、多くの場合認知症を患う子は高齢で、認知症以外の別の疾患が見られることがあります。そのため、その子にまずは病気などがないかしっかり確認しましょう。そして、状況に応じて必要ならばその疾患に対応したご飯に変えることが推奨されるかもしれません。

もしそのようなものがない場合は、下記のような認知症に対応したご飯が販売されてきていますので推奨されます

NC(ニューロケア):ネスレ

 https://nestle.jp/brand/purina/proplanveterinarydiets/product/dog/nc-neurocare


②環境ケア

環境ケアは、認知症を改善させるというわけではありませんが、日々の生活に取り入れることで、認知症の子でも安全に暮らす上で大切です。そのため、ご自宅を老犬目線で環境改善していきましょう。対策としては下記のような方法があります。

家具の移動は最低限にする

家具の位置を変えると認知機能の落ちた子では、時に迷子になってしまったり、不安を感じることもあるようです。また、視力の低下した子ではものにぶつかり危険です。

トイレを増やす、行きやすい場所へ移動する

認知機能が落ちるといつもはできていたところでの排泄が出来なくなっていきます。それは、場所がわからなくなることもありますが、関節が痛くてたどり着けない、排尿のコントロールができず間に合わない可能性もあります。トイレはなるべく本人が普段くつろいでいる場所の近くにしてあげましょう。また、外でしかしない子の場合、こまめに外でのトイレを促してあげましょう

滑らない工夫

年齢による筋肉量の低下や関節の痛みによってフローリングで滑りやすくなります。滑る床で踏ん張ると関節の痛みをさらに悪化させることにもつながります。滑る床にはすべて滑り止めのマットを敷き詰めてあげましょう。また、長い爪や足裏の毛が長いと滑る原因となるため短く保つように心がけましょう。

③知育トイなどを用いた脳トレ

脳は使わなければ人と同様衰えていきます。日々の生活の中にいかに頭を使うイベントを行っていくかによって脳の老化は変わっていきます。そこで下記のような対策がお勧めです。

散歩

その子の状態に合わせた回数や時間で行いましょう。同じ年齢の子でも関節が痛いか、体重はどのくらいか、犬種は運動量が必要な子なのかなどさまざまな要因によって必要な運動量はきまるのでどの程度の時間が必要かは、その子の状態をしっているかかりつけの獣医師にご相談下さい。

また、年齢に関わらず、夏の日中や、冬の寒い時間なども十分に注意しなければいけません。特に高齢の子であればあるほど適切な温度管理が必要になります。判断に悩まれる場合も動物病院にご相談ください

コマンドトレーニング

お手やお座り、伏せなどをさせることをコマンドトレーニングといいます。これは、ただ芸をさせているというわけではなく、コマンドに対して、適切に動くことで、ご家族とのコミュニケーションになり、かつ頭を使うことに繋がります。そのため、ご飯を与える際などにも毎回行っていくと良いでしょう。

知育トイの使用

以前人間でも『脳トレ』っていうゲームが流行ったように、ワンちゃんでも脳トレは有効とされています。例えば、下記のようなおもちゃが良いとされています。

④薬物療法

認知症に対する薬は大きく分けて2種類あり、認知症そのものを改善する薬と認知症に伴う症状を改善する補助薬です。

認知機能不全治療薬(塩酸セレギリン)

この薬は、日本では犬への使用認可はされていませんが、人ではパーキンソン病の治療薬とされています。この薬は、神経伝達物質に関わり認知機能障害を改善するとされており。他にも神経保護作用、酸化ストレスの緩和作用もあるとされています。犬でも同様に効果があるとされ、認知症の治療に用いられます。ただし、日本では覚せい剤原料に指定されており、動物病院での取り扱いに通常の薬と比べハードルがあり、所持している病院は少ないかもしれません。その他にも塩酸ドネベシル、ニセルゴリンなどがあります。

認知症に対する補助治療薬

認知症における症状のうちいくつかは、薬で改善ないし、治療補助することができます。例えば、不眠や夜鳴きなどに対しては、メラトニンというサプリメント、トラゾドンやベンゾジアゼピン系薬、フェノチアジン系薬などが症状によって適宜用いられる。ときに症状が悪化したり、効きすぎてしまうこともあるので、使用する上では獣医師に指示をあおぎましょう。その他にも不安行動や興奮に対しては、抑肝散などの漢方やクロミカルムなどの薬が用いられます。

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