- 猫伝染性腹膜炎(FIP)の診断
- 猫伝染性腹膜炎(FIP)の治療
- ムティアンについて
1.猫伝染性腹膜炎(FIP)の診断
FIPの診断は、前述のような症状が現れた子に対して、血液検査、レントゲン検査、超音波検査を行い、疑いを強めます。しかし、院内でFIPと確定診断をつけることは困難で、最終的な診断には外の検査センターにお腹や胸の水や出来物の一部を送って初めて決まります。
FIPの診断がつく最も多いパターンは、調子の崩れた子猫でお腹に水があるのが見つかり、その液体を抜いた後、外の検査センターに出して判明するパターンです。(ウェットタイプ)。しかし、外の検査センターに出す前に、取れた液体がドロッとした黄金色の粘稠性のある特徴的な液体だとかなり疑いを強めます。
しかし、その他のパターンとして超音波検査でお腹に出来物が見つかってそれを調べて、わかる場合もあります。(ドライタイプ)。頭の中に腫瘤や異常ができる場合もあるので、必要な場合はCTやMRIが必要になります。
2.猫伝染性腹膜炎(FIP)の治療
【獣医師執筆】FIP(猫伝染性腹膜炎)治療最前線2022年まとめ
最新情報の確認は上記へお願い致します。
①使われている薬剤、試薬
FIPの治療法は、残念ながら確立されていません。しかし、それらの病気の発生の成り立ちから経験的にインターフェロン、イトラコナゾールという抗ウイルス効果のある薬、炎症と免疫を抑えるステロイド治療、必要に応じてお腹の水や胸の水を抜く処置などが主に行われていますが、個人的な経験上時間稼ぎはできても治るところまでいった子は一人もいません。
しかし、今様々な研究がなされておりいくつかの抗ウイルス薬が試験的に用いられています。
・GS-445124…FIP猫の26頭中18頭の猫に効果あり
・GC376…FIP猫20頭中7頭に効果あり
・クロロキン…FIP3頭中2頭に効果あり
・ランプレン
【参照:猫の治療ガイド2020】
これらの薬剤は、今のところまだ商業的に病院で一般的に使われるところまではいっていません。そのため、用いる場合は獣医師との相談が必要になりますし、そもそも現在一部供給が不安定のため手に入れることが困難な場合があります。※当院では、扱っていません。
②その他の薬剤
・イトラコナゾール(本来抗真菌薬として用いられている。ウイルスの細胞内侵入を抑制作用も持つ)
・抗TNFα抗体(FIPの病態悪化に関わるTNFαの活性阻害)
③その他サプリメント
5-ALAという成分が含まれたサプリメント(エネアラ)がコロナウイルスの増殖抑制効果があると言われています。
5-アミノレブリン酸(5-ALA)によるネココロナウイルスの増殖抑制効果を確認|学校法人北里研究所 (kitasato.ac.jp)
2021/11/2追筆
オーストラリアの専門医では、人のコロナウイルス治療に用いられているレムデシビルが用いられており、効果が確認されているとのことです。
しかし、現在のところ日本の動物病院での扱いはできず(卸に確認してみましたが、動物病院にはおろせないとのこと)、海外からの輸入ができないかを確認してみています。
2022/1/25
『cure FIP』
というサイトが新たに確認されており、そのサイトからの購入が費用的な面、スピードの面では早くなりそうです。
しかし、ムティアン同様に出自がしっかりしているかはわからず、使う側にもリスクが伴いそうです
2022/10/4
『モルヌラピル』
インドの方ではレムデシビルのジェネリックであるモルヌラビルという薬剤が作られています。この薬剤は、インド政府が公認となっており、薬価もかなり抑えられたものです。
おそらくこの薬剤が今回のムティアン騒ぎの終焉をもたらす薬となってくれそうです。使い方についても最新のセミナーで紹介されており、効果も期待できそうです。
どうぞムティアンの使用はやめて、こちらの治療について獣医師とご相談ください
2022/12/23
『GS-441524(BOVA)』『レムデシビル』
刻々とデータが集まってきています。以前ムティアンの話は、もはや古い話であり、今は正規のルートから購入された『GS-441524』と『レムデシビル』の使用が主流となってきました。
そして、それらの薬剤を用いた研究が進んでおり、その効果もかなり高いものとなっています。
今後ムティアンやラブコンなどを使用する動物病院は、倫理的にも危険な病院というレッテルが張られることになっていきそうです。
3.ムティアンについて
最近ムティアンという薬がFIPの治療として一部病院で用いられています。薬と記載しましたが今のところ薬との承認はとれていないためサプリとして扱われています。その内容は、上記のGS-441524と同様と思われます。
これを用いるかが獣医の間でも賛否が非常に分かれています。その理由としては
〇賛成意見
・FIPに効果があり、致死性のこの病を治せる可能性がある。特にウェットタイプ。命が助かる可能性があるのに使わないことが獣医としての信条に反する。
×反対意見
・薬として承認されておらず、効果副作用などの明確なデータがないため危険性がある
そのようなものを使用する倫理的な問題。
・ブラックマーケットで扱われている。
そのためか、異常に高価、販路も不安定。
将来的には使用したことが法的な問題に発展する可能性を危惧する人もいる
そのため、私としては、上記の話をして、希望があればその薬を置いている病院を個人的に探していただいてもらっています。(調べればすぐにわかる)
今後はこの問題が解決して、FIPが治る病気となることを一獣医師として心から願っています。
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※このブログは、開示すべき利益相反はありません。病気の診断や治療法は、かかりつけの獣医師の判断を尊重してください。医療は、常に日進月歩です。今の医療がこの先も正しいとは限りません 。
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